11月22日(日)24時02分
午後6時帰京。
神戸駅で買ってきた牛肉弁当を母に届けた。
「今日はお肉が食べたいなと思っていたのよ」と、
嬉しそうに言われた途端、
疲れていても何か作れば良かったかなと、
「手抜き夕食」を申し訳なく思った。
留守中に届いていた新聞や郵便物などに、
ゆっくり目を通しているうちに、
ようやく旅の疲れが抜けて、
いつものペースが戻って来た。
午後8時。
NHKの大河ドラマ「天地人」が今日は最終回なので、
グラスに注いだシャンペンを持って、
テレビの前に座った。
~そうか、もう一年が経ってしまったのか。
次の大河ドラマが「天地人」になる、
と報道されて間もなくの頃、
丁度その頃、萬田久子さんが我が社と、
業務提携をすることになったので、
彼女を何とか次の大河ドラマに出したいと思い、
NHKに萬田さんの「プロモーション」に行ったのだった。
熾烈な競争社会である芸能界では、
ただ待っていたのでは何も始まらないのである。
やりたい「役」が向こうからやって来るとか、
「役を選ぶ」などということは、
相当売れている人以外はあり得ないのだ。
だから歌手や役者やタレントを抱えるプロダクションにとって、
所属アーティストのプロモーション(売り込み)活動は、
主たる業務で、営業セクションのスタッフは、
番組改編前になると次の番組がどんな作品で、
誰が担当者なのかなどの情報収集をして、
各局の制作担当者に自らアプローチをして、
売り込み活動をするのである。
昔は、まだ人がいない午前中などに局を訪れ、
制作スタッフの部屋に行って、
不在のプロデューサーやディレクターの机の上をチラリと見ると、
そこに何か欲しい情報があったりもしたというが、
(例えばそこに準備稿の台本が転がっていたら、
中を開けばそこにどんな「役」があるか見当がつくなど)
最近は局のセキュリティーが厳しくなっているので、
制作の部屋に入るのは難しく、
情報収集もしにくくなる一方なのだという。
萬田さんも個人事務所を持っており、
そこにも優秀なスタッフがいるので、
「積極的なプロモーション活動はしなくていいい」
という契約になっているのだが、
プロデューサーの端くれとしては、
せっかく一緒に仕事をすることになったのだから、
彼女に何か新しい境地を創りたいと思ったのだった。
(月刊女性誌のどこか一誌をホームグラウンドにしたいということで、
全女性誌のターゲット層や発行部数、発行地域などを、
検討した結果「HERS」に的を絞り、
こちらから「萬田さんの英国留学」を企画提案をしたのが、
「HERS」の表紙を飾る発端だったのである)
NHKにいる友人を介して、
担当プロデューサーを紹介して貰って、
会いには行ったのだが、
いざ会うと露骨に売り込むのも気が引けて、
面会のほとんどの時間を、
「直江兼続」の話をして終わってしまった。
「成功しても誰も友達がいない人より、
うまく行かなかったとしても、
友達がいっぱいいる人の方がいいと思いませんか」
プロデューサー氏がそう言った時、
思わず私も「今はまだフワフワした時代の名残りがありますが、
そろそろ義だの愛だのという、一見時代遅れみたいな概念が、
大切に思える時代が来るような気がしますよね」と言っていた。
二人で「直江兼続」のシンポジウムに出ているわけではないのだし、
私には「萬田久子のプロモーション」という大事な仕事があるのだから、
いつまでも兼続の話ばかりをしてはいられないのだが、
篤姫の後番組に「あえて地味な題材を提案した」
と言うプロデューサー氏の「兼続話」はとても面白く、
その頃は放映中の「篤姫」の人気が凄まじい頃だったが、
この朴訥としたプロデューサー氏の熱い言葉を聞いているうちに、
「天地人」もうまくいくような気がした。
萬田さんのことを何も言わないのもおかしいので、
帰り際、持参したプロフィールを渡して、
その日はそのまま帰ってきた。
2日後、スポーツ新聞を見たら、
「天地人」の主要キャストが発表になっていた。
「なあぁ~んだ、もう全部決まっていたのか」
ガッカリしていたところに、
過日の朴訥プロデューサー氏から電話が入った。
「上杉謙信が死ぬ時、
誰を跡目にするかを遺言したという説があるんですよ。
謙信の姉の仙桃院が策略したとも言われているのですが、
謙信を看病していたお万の方が、
『今わの際、殿は跡目は景勝さまにと言われた』と証言したことで、
景勝が景虎を押しのけて謙信の跡を継ぐことになるのですが、
このお万の方を誰にしようかとずっと考えていたんですけど、
難しいんですよね。
ただの嘘つきでは仕方ないし、
かといってそのままサラッといかれても困るんですよね。
ここから歴史が変わるんですからね。
僕はこのシーンは、
嘘だったのか本当だったのかを言い切らないで、
想像の域も創りたいと思っているんですよ。
だから、嘘を言っても下品な感じにならず、
それでいて嘘の意味もよく解っている賢さもあって、
ちょっとユーモアを感じさせる人.........。
で、ふと残間さんが持って来た萬田さんのプロフィールを見ていたら、
『そうだ、萬田さんしかいない!』と思ったんですよ。
お万の方は兼続の妻・お船(常盤貴子)の母で、
謙信の看病をするくらいですから、
夫の地位も高いので、山の中のお城ではあっても、
萬田さんには少しは綺麗な着物を来て貰えると思いますので、
どうでしょう、演っていただけませんでしょうか」
お洒落な萬田さんを気遣っているらしい言葉にも、
温かみがあった。
かくて、萬田さんはお万の方を演じることになったのだった。
いつもより長い最終回。
.........「完」という文字を見ていたら、
不意に朴訥プロデューサーに、
「お祝い兼ねぎらいの言葉」を伝えたくなって、
電話を入れた。
多分、今ごろはいろんな人から電話が来ているだろうから、
「伝言」だけでもいいと思ってかけたら、
運良くすぐにご本人とつながった。
「ありがとうございます」
声の奥底に軽い高揚感が感じられた。
大河ドラマが終わると、
いよいよ今年が終わるという気がする。
「天地人」が終わるや、
画面には次の大河である「龍馬伝」の予告編が映り出されている。
刻一刻と時は去り、
未知なる世界が手招きをしている。
待っているだけでは何も始まらない。
特に、時間もお金もエネルギーも、
「有限の時」を迎えている我ら大人は、
本気で動かないと、
このまま泡のように消えてしまうような気がする。
グラスに注ぎ足したシャンペンの泡を見つめながら、
「よっしゃ!来年はやりたいことのある人たちを、
もうひと頑張りして貰うために、義と愛で力を尽くすぞ」
と、「大人サポーター」としての思いを強くする私なのだった。
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