3/4(木)暗闇の中で。

icon_zamma.jpg3月4日(木)25時03分

今日は母の養母の、
51回目の命日だった。

母は4歳の時に、
先方が富裕な家だということで、
ある中年夫婦に養女に出されたのだが、
昔よくある話で、この夫婦が事業に失敗し、
富裕な生活どころか、
15歳の母が女学校の給仕をしながら、
一家の担い手にならざるを得ないという、
バックグランドの持ち主なのである。

その夫婦、庄七・縫(ぬい)が母を育てた養父母で、
血が繋がってはいない母を、
目に入れても痛くないほど可愛がってくれたのだという。

縫(ぬい)が母の養母になったのは46歳の時で、
私が生まれた時は既に79歳。
私を出産して、産院から家に戻った母を、
お赤飯、鯛のお頭入りのお吸い物、お煮しめなど、
貧しい生活の中から精一杯のご馳走で祝い膳を調え、
待っていてくれたのだという。

「あなたのことは本当に可愛かったみたいで、
転びそうになりながらも、四六時中背中に負ぶって、
本当の孫のように思っていたわよ」
と、母に言われながら育ったので、
私にとっては(同居しているということもあったが)
父方の祖母よりずっと近しい存在だった。

庄七は73歳で、縫は88歳で生涯を閉じたのだが、
最後まで貧しさの中に身を置いていたのでお墓がなく、
心やさしい遠縁の所有する墓所の一隅に、
葬られていたのだった。

お墓参りに行く度に、
漬物石のような小さな丸い石が、
コロンと置かれただけの淋しいお墓が可哀想で、
今から10年前に私が建てたお墓に、
仙台のお墓から改装して、
二人を連れてきたのだった。
今では、
私と息子が入る予定だったお墓に、
父の両親、父の姉妹とともに眠っているので、
淋しくはないと思う。

母は時々、父の命日は忘れるのだが、
縫さんの命日だけは決して忘れず、
毎年3月4日が来ると、
「今日は縫ばあちゃんの命日よ。お線香の1本ぐらいはあげてね」
と言うのである。

ということで、
今日は縫さんの墓参から一日が始まったのである。

午後2時。
会社のスタッフ4人と、
「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」に行った。

先々週、
アミューズの大里洋吉さんから、
「あなたに是非見て貰いたいものがあるんだ」
との電話があり、
ようやく今日実現したのである。

イベントというのとも、
パフォーマンスというのとも違う、
「異領域体験」とでもいうべきもので、
説明パンフレットには、
「まっくらやみのソーシャルエンターテイメント」
と、記されていた。

参加者は白杖1本を持って、
光が完全に遮断された空間の中へ、
5人から8人程度のグループを組んで入り、
暗闇のエキスパートである、
視覚障害者のアテンドによるサポートのもと、
見えない空間を探検し、
そこに繰り広げられるさまざまなシーンを体験するのである。

グループメンバーは互いに自分の名前を申告し、
(私は「ZANZAN(ザンザン)」と名乗ったが、
他の人たちは普通に名字を名乗っていた)
「セジマ、今から座ります」
「マツダイラ、杖がどこかにいってしまいました」
「ヒロモリ、右に動きます」等々、
自分の居場所や立居振舞いを、
いちいち音声言語化しなければならないのである。

私は、
漆黒の闇回廊を歩く善光寺の「戒壇巡り」や、
丁度明後日からwillbeの旅企画で行くことになっている、
直島の「南寺」体験などを経てからというもの、
暗闇体験が好きなので、
ワクワクしながら参加した。

視覚機能は完全に抑制されているが、
聴覚・触覚・嗅覚などは機能しているのだから、
落ち着いていれば何とかなるのに、
ナカヤマはあちこちにぶつかりながら、
「痛いッ」だの、
「みんなどこ?」だのと煩いのである。
ついには水鉄砲を持った私に向かって、
「私がどこにいるか解ったら、
その水鉄砲で打ってもいいわよ」と豪語したので、
声の距離感から狙いを定めて打ったところ、
ナカヤマの顔の真ん中に命中したのだった。

私は闇の濃淡が解るような感じがするので、
(あくまで「感じ」がするだけだが)
視覚が途絶していることの不自由さを感じるより、
脳の知覚の凄さを再認識した。

つまり、
今、目の前にあるモノは見えないが、
モノにはそれぞれ名前があることも、
機能があることも知っているので、
「マツダイラ、門を見つけました」と言えば、
みんなそれぞれにイメージの中の門はあるわけだし、
「セジマ、コタツ発見!」と言えば、
コタツがどんなモノなのか一応の見当はつくわけだから、
モノが言語化される前に視力を失った人とは、
比べものにならないのである。

今日は気心が知れた、
我が社のスタッフ5人が1グループになっての体験だから、
恐怖心も緊張感も半減しているが、
知らない人同志だったら、
さらに深い体験になっただろうと思う。

極彩色のような目まぐるしい毎日に、
疲弊している人、飽き飽きしている人には、
是非お勧めしたい。

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club-willbe
(2010年3月 5日 01:03) | | コメント(4)

コメント(4)

おはようございます、なかなか出来ないことだと

思いますが良いことされてますね。

きっと喜ばれ残間さんを応援されてることでしょう。

涙の雨、あられ。

      

以前、講演会でお話をうかがって元気をもらった者です。
モノを言語化していることって、普段忘れてしまっているけど、本当に大きな意味を持つんですね。
『言葉のない世界に生きた男』という本の、手話を教えられず成人したろう者の話を思い出しました。成人になってから手話を教えてもらったとき、いちばんショックを受けたのは、物に名前があることを知ったときだったそうです。言葉にすることの意味って大きいですね。
これからも残間さんのブログを楽しみにしています。

読売新聞日曜版「酒ひと心」の挿絵を担当させていただきました山形の杉崎です。第1第3土曜日に、NHKカルチャーの仙台教室に伺うときに、いつもNHKラジオで聴いています。ブログに初めて訪問いたしました。これからも時々お邪魔させていただきます。

今月は、お彼岸もありますね。ブログを、拝見しながら、大好きだった祖父母を、思い出しました。特に、今も人生の師と思っています、祖父の命日が今月です。お墓参りに出掛けようと、思いました。旅行参加したかったです。楽しんで来て下さい。毎日、ブログ楽しみにしてます。

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photo_nikki
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プロフィール

残間 里江子【プロデューサー】

1950年仙台市生まれ。アナウンサー、編集者などを経て、企画制作会社を設立。 プロデューサーとして出版、映像、文化イベントなどを多数手がける。著書多数。

書籍情報

引退モードの再生学

引退モードの再生学 残間里江子

【著者】
残間里江子
【出版社】
新潮社
【価格】
500円

モグラ女の逆襲
~知られざる団塊女の本音~

モグラ女の逆襲 ~団塊女の知られざる本音~ 残間里江子

【著者】
残間里江子
【出版社】
日本経済新聞出版社
【価格】
1,575円

それでいいのか 蕎麦打ち男

それでいいのか 蕎麦打ち男 残間里江子

【著者】
残間里江子
【出版社】
新潮社
【価格】
1,470円