- 残間
- 今日はよろしくお願いします。
私はもうずいぶん前から存じ上げていますが、
今日は岡康道さんという、魅力的な方を
ウィルビーのみなさんに紹介したくてまいりました。
- 岡
- こちらこそ、よろしくお願いします。
- 残間
- 1980年に電通に入社してCMプランナー、
クリエーティブディレクターとして活躍され、
1999年に独立。
広告企画制作会社というか、日本初の
クリエイティブ・エージェンシー『タグボート』を
設立したわけですが、最近はどんなお仕事を?
- 岡
- 大和ハウスの役所広司さんの一連のシリーズと‥‥
- 残間
- 大和ハウスはクラブ・ウィルビーの
協賛スポンサーでもあるんですよ。
- 岡
- 深津絵里さんとリリー・フランキーさんが
夫婦役のシリーズですね。
この二つが大和ハウスの企業広告として動いています。
それからサッポロビールの黒ラベルの、
「大人エレベーター」というシリーズ。
妻夫木さんが56階のボタンを押すと
56歳の人が現れるというものです。
あれはもう4年になりますね。
大和ハウスは8年やってます。
あとはNTTドコモですね。
渡辺謙さんや桑田佳祐さんが携帯電話として
擬人化されるシリーズです。
今はこの三社が量としては多いです。

- 残間
- そもそも岡さんが広告クリエイティブの
世界に入ったのは、どういう経緯だったんですか。
確か電通では、最初は営業で入社したんですよね。
- 岡
- ええ、4年ぐらいやりました。
- 残間
- それからクリエイティブに移ったんですね。
- 岡
- その時にちょうと
「転局試験」という制度が始まったんです。
制度がなかったら、ずっと営業やってたと思います。
- 残間
- 入社時はクリエイティブ希望だったんですか。
もともと広告に興味があったとか。
- 岡
- 全然なかったです。
電通だったら配属はどこでも良かったですね。
給料高いって聞いてたんで。何しろ僕は貧乏でしたから。
給料が良かったら、どの会社でも良かったです。
- 残間
- 一見そうは見えないんですけど、
なかなか複雑なんですよね。
お父様が一時失踪したり。
- 岡
- 複雑というより、
母子家庭で生活保護家庭だったというだけ。
だから貧乏を避けたかったんですよ。
それで調べまして、
30歳の平均給与が高い会社から順番に受けました。
- 残間
- そういうこと言うと、岡さんのイメージからすると
ウソだと思われるでしょ?
- 岡
- (笑)わかりませんけど、本当の話ですよ。
まあ、もはやネタみたいになってますけど。

- 残間
- (笑)それはいいことですが。
- 岡
- それでとにかく会社に入りやすくするには、
「営業やってみたい」と言うことなんですね。
電通は半分は営業ですから。
それで思い通りに入れたんですけど、
やってみたら全然、営業に向いてなくて。
- 残間
- 配属は?
- 岡
- 僕は銀座です。銀座電通。で、当時は
人事ローテーション・システムなんてなくて、
「一生営業やれ」って言われて配属されるんで、
まあ、ある覚悟を持ってやるんですけど、
あまりの難しさというか、要するに
人間関係のプロにならなきゃいけないんです。
- 残間
- クライアントの担当者の、
家庭事情まで知ってるぐらいでないと。
- 岡
- いやもう、本当にそうですよ。
- 残間
- あの会社の課長は、
最近、奥方とうまくいってないとか?
- 岡
- クライアントに引っ越しなんかあったら、
燃えないゴミは僕らが運ばないといけない。

- 残間
- (笑)
- 岡
- そういう日々を続けているうちに、
いくら給料がいいからって、ちょっとこれは耐え難いぞと。
クライアントが面白い人なら幸せですけど、
そうとは限らなくて、
退屈なオジサンの話を毎日毎日、聞かないといけない。
自分には無理だと思ったんですが、
当時はまだ“転職”という文化がなかったんですね。
- 残間
- そうですよね。
- 岡
- 男はいったん会社に入ったら、一生そこで過ごせと。
だからどうしようもなくなってたんですけど、
そこに転局制度が始まったんです。
どこかに移れれば、営業はやらなくて済むと。
仮に試験に落ちても、
人事部に戻されてもう一度配属を検討される。
要するに営業から逃げるために
クリエイティブに行ってみたというのが、
本当のところですね。
- 残間
- 入社前までは、どちらかというと
スポーツ少年みたいな感じだったんですよね。
大学ではアメフトをやってて。
- 岡
- そうです。
仮に入社時にクリエイティブを希望しても、
僕の履歴書からはクリエイティブに配属する理由が
見当たらないはずなんです。
とりあえず営業から逃げ出して、
そこに行ったんですけど、
やってみたら意外に面白くて、
しかもそんなに難しいことでもないし、
何より競争が少ないんですよね。
- 残間
- 競争が少ない?
- 岡
- テレビコマーシャルを企画する人って、
日本に200人くらいしかいないんですよ。
- 残間
- 今もそうですか?
- 岡
- 今もそうです。
しかも大手の広告代理店で、
10年ぐらい修行しないとなれないんです。
職人仕事ですから。
まず大手の代理店に入るというだけで、
すでに面白い人がふるい落とされてる可能性が高い。
- 残間
- (笑)

- 岡
- すると元々あまり向いてない人の中から、
無理矢理クリエイティブに行く人間を
選ぶことになります。
CMプランナーに配属されて10年経つと
テレビコマーシャルを作れるんですが、
そもそも不向きな人が集まってるだけに、
その200人のトップ10に入るのは、
それほど難しいことじゃないんですよ。
おまけに椅子が少ないから、新陳代謝も激しくない。
- 残間
- なるほど。
- 岡
- 大手広告代理店は、なかなか入れないから。
途中からは、
こんな楽な商売あるんだろうかと思ったぐらい。
- 残間
- (笑)適性もあったからでしょうけど。
- 岡
- 適性と言ってもそれほど難しいことじゃなくて、
まずやるチャンスがないじゃないですか。
10年間あのトレーニングするというのは、
普通の人生ではあり得ないから、
適性があるかどうかなんて関係ないというか、
わかんないものなんですよね。
- 残間
- 好きか嫌いかというのはあるでしょう。
- 岡
- それはありますけど、僕の場合は、
営業に戻りたくないという一心で頑張りました。
その時は。
(つづく)